1世紀余の時空越え 山岳信仰儀式を再現
白装束女性ら布橋灌頂会
(北日本新聞、1996.9.30-月曜日-の記事を転載)

 一世紀余の時を経て布橋灌頂会(ぬのばしかんじょうえ)がよみがえった。 国民文化祭とやま'96第二日の29日、立山町芦峅寺の 県立立山博物館を中心に 立山フェスティバルがあり、山岳信仰が盛んだった時代に、登拝を許されなかった 女性たちを救済するため行われた儀式を再現した。 この日は20市町村34会場で期間中最多のイベントがあり、祭りはピークを迎えた。 皇太子ご夫妻は大島町絵本館で世界の児童画展などをご覧になった。

 富山市出身の作家、辺見じゅんさんが女人衆代表になり、 一般から募集した女性27人が白装束に身を包み、 薄暗い閻魔堂に入った。 辺見さんが「国民文化祭で当地ゆかりの灌頂会を復元することになりました」と 文を読み上げた。阿闍梨が「よく戒を保つや否や」と問い、 そろって「よく保つ」と誓いを立て、閻魔像に手を合わせた。

 女人衆は目隠しをして編みがさを被り、堂を出た。 ほら貝の音を合図に歩きだし、雅楽を奏でる引導衆に続いてゆっくりと階段を下り、 橋のたもとへ。 あの世とこの世を結ぶといわれる布橋に三筋の白布が向こう岸まで敷かれ、 橋渡の儀式が行われた。

 地元民が見守る中、対岸から迎えに来た来迎衆に導かれ、 橋を一列になって渡った。

 最後の舞台、遙望館(ようぼうかん)では闇の中で僧たちが聲明を唱え、 目隠しを外し一心不乱に祈った。読経が最高潮を迎えたとき、 覆いが一斉に開かれ、まばゆい光の中に立山連邦が浮かび上がった。 「南無阿弥陀仏」が唱えられ、明治初期以来の儀式を厳かに締めくくった。

 畠山満喜子さん(53)=富山市岩瀬=は 「閻魔堂の前で誓った言葉が本当に自分にうそのない言葉だったか不安になり、 血が逆流するような感じがした」と話す。 親子で参加した中島奈美子さん(44)とるり子さん(15)=同市晴海台=は 「厳かな雰囲気に心が洗われるようだった」と感激していた。 辺見さんは「不思議な体験だった。橋を渡っている時間が長く思えた。 自分の心と向かい合っている気がした」と振り返った。

 俳優の児玉清さんが解説し、林雅彦明治大学教授による 立山曼荼羅の絵解きやトーク、山岳信仰に関りの深い稚児舞や獅子舞も行われた。


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