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聲明の楽理


3.十二律

 聲明の音律も西洋音楽と同じように、1オクターブ12音で構成されます。 ただし、この12音は平均律によって算出されるものではないようです。 詳しくは中田さんの 雅楽の音律のページをご覧ください。 聲明も雅楽も音律は同じはずです。

 洋楽の12音に、CDEFG...と名前がつけられているのと同じように、 聲明(邦楽)の12音にも名前がつけられています。 その名前を列挙すれば、

壱越、断金、平調、勝絶、下無、双調、 鳧鐘、黄鐘、鸞鏡、盤渉、神仙、上無
ということになります。 音律に関する知識は中国から入ってきているので、 このような漢字の名前がつけられているのですね。

 この12音を西洋の12音に対応させれば、
壱越=D(レ)、断金=D#(レ#)、平調=E(ミ) ...(中略)...黄鐘=A(ラ)...(中略)...上無=C#(ド#)
になります。

 ただし邦楽の場合、伝統的に黄鐘(A)=430Hzで調律しているので、 洋楽の12音(A=440Hz)よりも、全体的に少し低めです。


4.旋法と調子

 洋楽にハ長調(C)やニ短調(Dm)などの調子や旋法があるのと同じように、 聲明でも調子があります。

 旋法としては律(りつ)と呂(りょ)の2つが定義されています。

律の旋法 呂の旋法

 上の図は、壱越調の場合の律と呂の旋法を五線譜に表したものです。 このように宮(第1音)と角(第3音)との差が、 完全4度(半音5つ分)であるものを律、 長3度(半音4つ分)であるものを呂というのです。

 また、上の図のように第1音が壱越(D)の音で 始まる調子を壱越調といいます。 同様に第1音が双調(G)で始まるものを双調といいます。

 理論的には、12音のそれぞれに律と呂の旋法があり、 全体では24の調子があるはずですが、 真言宗の聲明では伝統的に次の5つの調子を使用することになっています。

壱越調の呂、平調の律、双調の呂、黄鐘調の律、盤渉調の律

 ですから、上記の左側の五線譜の調子(壱越調の律)は、 真言宗では用いないことになっていることをお断りしておきます。

 なお、十二律と五音、五調子の関係の表 を作りましたのでご覧ください。


 ここで、聲明の譜面の ページの不動讃の譜をご覧ください。 タイトルの下に「壱越反音」と書いてありますね。 これは壱越調であることは間違いないのですが、 律とも呂とも書いておらず、「反音(へんのん)」と書いてあるのです。

 実は、これは曲の途中で旋法が変わることを示しております。 つまり最初は壱越調の呂で始まるのですが、 曲の途中で律に変わったり、呂に戻ったりすることを「反音」というのです。 ともかく、不動讃の場合、最初の音は壱越調の呂の商の音ですから、 絶対音としては平調(E)の音で始まります。